ディー・クルー・テクノロジーズ Blog

bookmark_border負帰還 (その1)

今回はPLLの元となる「負帰還」について話してみたいと思います。

負帰還は何かを制御するときの基本中の基本です。これを理解していないと、回路が不安定になり時には発振し、大きな問題を引き起こしたりします。

負帰還回路の帰還とは、信号が戻ってくるから帰還といい、戻ってくる値が入れた信号に対して負(つまり、反対)なので、負帰還といいます。

信号Aは処理Aを経由して信号Bに変化するとします。しかし、信号Aを送った人は、本当に信号Bに変化したか分かりません。処理Aがあまり信用出来なかった場合どうするかというと、信用できる処理Bを使って信号Bの様子を聞きだそうとします。もし信号Bが目標とずれていたら、ずれている分だけ信号Aを補正し、信号Bを目標に一致させます。

このような面倒な事をしなくても、処理Aをきちんと設計して、目標通りに動作するようにしたら良いと考える方もいると思います。確かにその通りなのですが、電子回路の中にも得意/不得意があって、オールマイティな回路はなかなか出来ないものです。

通信系の回路で、DCフィードバックという回路(別の名前で言うかもしれませんが)があります。この回路を例にして、もう少し具体的に説明してみたいと思います。

微小信号を増幅して、デジタル回路でも判別できるように増幅する”広帯域アンプ”は、出来るだけ高速に動作するように寄生容量を少なくする必要があります。そのため、トランジスタのサイズは小さいほうがいい事になるのですが、小さくなると絶対値がバラツクだけではなく、相対精度も悪くなり、適切なバイアス状態に増幅器を保てなくなります。

これを防ぐために出力電圧の平均値(つまりバイアス)を検出して、基準電圧(目標)と誤差アンプで比較し、入力を補正する回路を追加します。平均値を制御するわけですから、誤差アンプは高速動作する必要は無くなりトランジスタサイズを十分大きく出来ます(でも、チップサイズとのトレードオフがありますが)。

このDCフィードバック回路を使うことで、温度や電源が変わっても、製造ロットが変わっても、常に広帯域アンプの出力バイアス電圧は基準電圧と同じなので、この次の段、例えばA/Dコンバータは安心してデジタルに変換できる事になります。

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上図のような小さな信号が入力された時、広帯域アンプが0.5V付近を増幅できるようにバイアスされていたら、出力にきちんと増幅した信号が出てくるのですが、

バイアスが上にずれて”0.55V”付近を増幅するようになっていたとしたら、下半分にしか信号が出てこなくなり、デジタル信号変変換が出来なくなります。

DCフィードバックはこの状態にならないように、入力信号のレベルを(または広帯域アンプのバイアスを)調整する役目をしています。

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通信系の回路では、主信号通すブロックには低雑音、線形性や高利得、広帯域、高速、高駆動などの厳しい要求が課せられるため、主信号系回路のバイアス制御などは負帰還回路を用いて行う事が一般的です。

オールマイティな回路が作れたら負帰還回路は要らないかもしれませんが、現実はそんなにうまくいきません。

主信号系と制御系(負帰還回路)がお互いに補正しあいながら全体としてうまく動作しているところは、仲の良い夫婦と似ていると思うのは僕だけでしょうか。

次回は、負帰還の安定性に触れたいと思います。(美斉津)

bookmark_borderLSI開発 エラーは無くならない

LSIを開発した後、そのLSIがきちんと動作しているかを確認することを僕たちは「評価」と呼んでいます。

この評価で、大きな喜びの瞬間があります。それは、信号が疎通する、つまり送ったデータがエラーせずに受信できた瞬間です。単純な回路よりも、複雑で要求されている特性が厳しい時はその喜びは何ともいえません。

そんな風に感じる私は・・・少し変なのかも知れないです(汗)

 

さて、信号が通ってエラーが無くなったと良く喜びますが、本当にエラーは無くなったのでしょか?

実は残念なことに、エラーは無くなっていないのです。エラーの発生確率がすごく低いので、たまたま実験室で見ている時はエラーが出ていなかっただけ・・・なのです。いやそんなはずは無いと言う方もいるかと思いますが、、、1年後、20年後、100年後もエラーは絶対にしないと言えるでしょうか?

 

エラーとは簡単に言うと、”1”であったはずのものが”0”になってしまうこと(またそれの逆)です。

そもそも、”1”とか”0”とかは人が決めたものであって、自然のままの信号は”1”も”0”も無く、連続しています。

また、世の中の信号には必ず雑音が混じっています。熱雑音、ショット雑音、フリッカーノイズ(1/fノイズとも言います)が主なもので、物質に温度があれば必ず雑音が混じっています。雑音は乱数なので、その量がどこまで増えるかは・・・確立の問題となるのです。

“1”が雑音で時々”0.9”になっても閾値が”0.5”だったら”0”と誤ったりしないのですが、雑音の量が非常に稀に、何十年に1度だけ、ほんとに偶然に偶然が重なって、0.499999になってしまったら”0”とエラーするのです。

 

長距離飛んできた電波や光は、信号が非常に小さくなってしまっているので、雑音に埋もれています。

なので、携帯電話やデジタルテレビでは、会話や画像が途切れてしまったりしないように、色々な保護やエラー訂正機能が組み込まれています。気づかないだけで内部でエラーは発生しているはずです。エラー訂正機能があるのなら、問題ないということになりそうなのですが、この訂正機能も訂正前のエラーが手におえないほど多くなったら時々訂正に失敗してエラーしてしまいます。

 

電子回路や装置は誤ってはいけないので100%を求められるのですが、どんなに頑張っても完璧に100%エラーをなくすことは出来ません。こう言うと、”そんなのはちゃんと回路設計が出来ないいい訳だ!”とおっしゃる方もいるかもしれないです・・・・が、電子回路も自然の一部なのですから、必ず間違えるのです。大事なのはそのエラーを予め考慮し、エラーが発生したときに使う人が気が付かない様にしておくこと、が重要なのではないかと思うのです。

 

次回は、、、”アナログの回路図の記号”について書いてみたいと思います。 (美斉津)

bookmark_borderアナログ回路図の記号

寒い毎日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。

会社(横浜です)の前の通りにある木が枝だけになってしまって、ねぐらにしていた鳥たちは今どこで過ごしているのか気になっている、今日この頃です。

皆さんはアナログの回路図って見たことがあるでしょうか。線がジグザグになっていたり、棒が3本あってまるで囲まれている記号がある図面です。最近は全く無いですが、昔はテレビの後ろのパネルには何か図面が貼り付けてあったものです。何の為に貼ってあったのか分かりませんが、子供心に興味深深で、その図面が見たくて埃だらけのテレビの裏を覗いたものでした。デジタル回路は今やRTLやVHDL等の記述言語で表現することがほとんどで、回路図はあまり目にしなくなっていますが、アナログ回路は回路図がまだまだ現役です。

何かの機能を表検するのに”記号”が使われますが、アナログ回路に使う記号はすごく良く出来ています。

その部品やデバイスがどんな動作をするのかが記号を見ただけで分かって(イメージできて)しまいます。

例えば、抵抗は線をジグザグに書きます。

何か通り難い感じをうけませんか?・・・抵抗は線の中を電流を通り難くするのです。

コンデンサはこんなです。

並行した板が向き合ってます(実際に構造もそうなっています)。並行の板の間には何も入っていないので、行き止まりの感じがします。でも、板が近いので急いだら向こう側に行けそうな感じがしませんか?・・・コンデンサは、低周波(ゆっくり)は通し難いのですが、高周波(早く)は通し易いのです。

インダクタはこんなです。

抵抗とちょっと似てますが、線がらせん状に巻いてあります。(これも、実際に構造とおなじ)。

くるくる巻いてあるので、通り抜けるのに時間がかかりそうです。ゆっくり進むときは気になりませんが、急いで通り抜けようとするとくるくるが邪魔になってきます。インダクタは、低周波(ゆっくり)は通し易いですが、高周波(急いで)は通し難いです。トランジスタはこんなです。

ちょっと言葉では説明が難しいのですが、先ず矢印があります。これは、この矢印の方向に電流が流れることをしめしてます。そして、矢印の両端(ベースとエミッタ間)の電圧はだいたい0.7V位であまり変化しません。

もうひとつの端子(コレクタ)には矢印がないです。これは、ここ(コレクタ)の電圧は自由に動くことを示したいのです。トランジスタの回路設計をする時は、

①ベース電圧とエミッタ電圧を決め、

②その値からコレクタに流れる電流を求め、

③コレクタに繋がっている部品や電源電圧からコレクタの電圧を求める

の手順で設計するのが基本です。

アナログの世界は、絵や記号などがすごく重要な意味を持ちます。それは、扱うアナログ量は数字や言葉でよりも、絵や記号の方が表現し易いためなのではないかと思います。これらの記号は世界共通(少し方言がありますが)です。

言葉でいくら説明しても全く分かってくれなかった海外のエンジニアが、回路図と波形をOAボードに書いた途端、

“OK, I understood”

と言った事が何度あったことか。(美斉津)