ディー・クルー・テクノロジーズ Blog

bookmark_borderディジタル信号処理~高校数学で理解する離散フーリエ変換① アナログ信号とディジタル信号


 今季節は鬱陶しい梅雨の真っただ中。でも雨上がりの晴れた空に美しい虹がかかっているのを見つけたら、ちょっとうれしく感じます。

アナログ信号とは何か

さてここで、虹について簡単なクイズです。

この写真の虹の色は全部で何色ですか、と問われたらどう答えますか? レインボーカラーの7色?

もし私の小6の息子がそう答えたなら、「うん。でも実際には虹の色はきれいに分かれておらず、連続的に変化してるんだよ、アナログ信号みたいにね。」と答えてしまいます(笑)

虹に例えてみましたが、アナログ信号とは、”時間tに対して変化が連続的な”信号”のことで、関数グラフで表すと図1のような波として表せます。

図1

ディジタル信号処理とは?

これと対照的なものにディジタル信号があります。

このディジタル(デジタルとも言いますね)とはなんでしょうか?Wikipedia に詳しい解説がありますが、一言で言うならディジタル信号とは、”情報を段階で区切って数字で値nで離散的に示した信号“のことです。

この離散的というのはどういう状態なのか、図2に示しました。図1の連続的なアナログ信号が、段階的に区切られ、切り離された個々の数値になっています。これは、アナログ信号から一定間隔でサンプルを取り出しているのですが、このプロセスを標本化(サンプリング)と呼び、これら標本化された値の集合がディジタル信号となります。

図2

ディジタル信号処理とは、このようにアナログ信号(連続信号)をコンピュータが扱いやすいディジタル信号(離散信号)に変換して、音・映像・通信情報など様々な情報のより高度かつ効率的な処理をコンピュータで実現することです。

実は連続的なアナログ信号はそのまま今のコンピュータでは扱うことはできません。ディジタル信号=離散した数値にしないと処理ができないのです。コンピュータに支えられている今の社会環境にとって、ディジタル信号処理は目立たないけれども、とても重要なプロセスなんです。

ディジタル信号処理を数学的に示すと

ディジタル信号処理について数学的に示したのが、図3です。

図3

右図の連続=アナログ信号の積分は、時間の関数としての信号の面積を求める操作であり、∫𝑥(𝑡)d𝑡と表されます。これに対して、左図の離散=ディジタル信号では、標本化された値の総和を取ることで、信号の全体的な特性を捉えます。これは∑𝑥(𝑛)という形で表されます。

このとき、ディジタル信号の総和は、アナログ信号の積分に相当すると考えることができます。

ディジタル信号処理を学ぶ意義

ディジタル信号処理は、これまで音声処理、画像処理、通信システムに始まり、私たちが扱う産業機器センサや超音波医療機器など、実に幅広い機器やサービス創出を裏で支えてきました。また私自身、信号処理のプロとして現場で革新的な瞬間を何度も体験しました。その経験から言えるのは「これからエレクトロニクス技術で未来社会を支えていくエンジニアが、信号処理を数学的に理解し適切に扱えるようになれば、技術者として確固たる強みになる」と感じています。

このブログシリーズで、ディジタル信号処理における強力なツールの1つである離散フーリエ変換(DFT)とは何か、高校レベルの数学で理解いただけることを段階を踏んでお伝えしていきます。次回は、フーリエ変換とは何か、そしてその理解の前提条件となる数学知識についてお伝えします。

bookmark_borderBGR(Band Gap Reference)(5)

前回はとトランジスタのオフセット電圧が引き起こす問題について紹介しました。

今日は、その対策について触れたいと思います。

オフセット電圧のためループが誤った動作点に収束し、BGR電圧が起動できなくなることを防止するためには、スタートアップ回路が必要になります。

図1

スタートアップ回路はBGR電圧(VBGR)を監視していて、電圧が低いと(つまり、起動できていないと)何らかの方法で、ループが誤った動作点に収束しないようにする回路です。

誤った収束点ではBGR電圧は0.5V程度の非常に低い値となります(前回BLOG参照)。ここに収束しないように強制的に電流を流してやり、オフセット電圧を打ち消せるだけの差電圧がVaとVbに発生するようにしてやります。

図 1ではM9とM10で構成するインバータがBGR電圧を監視していて、閾値(M9とM10のL/Wで調整しています)以下の時はインバータ出力電圧Vstが高くなり、M8に電流が流れます。この電流はPchのゲート電圧を下げ、M6の吐き出し電流を増やし、BGR基準部に流れる電流を増やします。

ここまでくれば、後は圧縮アンプが自動的に正しい収束点まで導いてくれます。

きちんとBGR電圧が起動できた後は、強制的に流していた電流は不要となるので、オフさせます。

図 1でM9とM10で構成するインバータの閾値よりBGR電圧が高くなると、インバータ出力電圧Vstが低くなり、M8に流れていた電流がオフします。

図2

スタートアップ回路に依って、前回のBLOGではBGR電圧が起動できなかった、-5mV、-4mV、-3mVもきちんと起動できるようになりました。

スタートアップ回路には、いくつかの別の方法があります。

BGR電圧を直接監視しないで基準部に流れる電流を監視するものや、強制的に電流を流すのではなく、電圧を強制的に動かすものなど色々あるのですが、

  • BGRの起動がきちんと監視できるか
  • 強制的に流す電流は十分か(圧縮アンプに負けないか)
  • 起動後はオフできているか

がスタートアップ回路設計上のポイントと思います。

BGRに関しては今回でひとまず終わりにしたいと思います。

bookmark_borderBGR (Band Gap Reference) (4)

今日はとトランジスタのオフセットが引き起こす問題について紹介したいと思います。

物を作るときには必ず製造上のバラツキが発生します。

(コピーすれば同じものが2つ出来ますが、これはデジタル化しているから同じといえるのであって、この世にまったく同じものはないと思っています)

バラツキは回路の特性を大きく変えますが、差動増幅器で特に気をつけないといけないのは入力段トランジスタに発生する“相対バラツキ”です。

図1

これらの製造上のバラツキは、“モンテカルロ解析”でシミュレーションすることが出来ますが、上の図のようにシミュレーション用に電圧源を追加することで簡易的に確認出来ます。

図 2はオフセット電圧をパラメータにして、電源をゆっくり起動したときの様子です。

図2

オフセット電圧が、-2mVより低いときはきちんとBGR電圧が起動できていません。

CMOSトランジスタのVthには5mV程度のオフセットが普通に発生しますので、このまま作ってしまうと半分近くのデバイスはBGR電圧が起動出来ずに不良となってしまいます。

オフセットがあるとなぜ起動できないかというと・・・

図3

BGRの基準部分にオフセットつけた回路だけのシミュレーションをしてみると分かります。

(オフセットはアンプの入力段のトランジスタに発生するのですが、等価的に基準部にオフセットが発生し、アンプは理想的に出来ているとしたほうが、わかり易いです)

図4

VBGRに電圧を加えたときに各部の特性は上の図の様になっていて、VaaとVbが等しくなる点で収束します。(VaaとVbが等しくなるようにアンプはVBGRを制御します)

VaaとVbの差電圧をプロットすると図 5の様になります。

図5

(オフセット電圧Vofを-5mVから+5mVまで1mV刻みの変化させた結果です)

期待している動作は、横軸が1.2V付近に収束する(差電圧=0となる)わけですが、0.5V付近にも差電圧=0となる収束点があります。Vofが正であれば誤った収束点は発生しないのですが、負の場合に発生します。

こちらに収束してしまうとBGRが起動できない事となってしまいます。

次回は、この誤った収束を起こさないようにするための対策(スタートアップ回路)を紹介したいと思います。